まだ、私が中学生の頃、
あの糸川英夫博士と会ったことがあります。
糸川博士は、広島市内のとあるホールで、
弦楽奏とクラシックバレエを披露されました。
糸川博士といえば、探査機はやぶさが
2005年に到達した小惑星イトカワの名前にもなっている、
日本で初めて打ち上げロケットを開発した重鎮です。
なのに、ホールでは、バイオリンやチェロを弾き、
白タイツ姿でステップを踊っていたのです。
押しも押されぬ著名な科学者がなぜ、
自らの開発実話ではなく、
弦楽奏やバレエを披露されにいらしたのか、
当時の私には全くの謎でした。
それでも、芸術に情熱を傾けるお姿を見て、
この方は「現在」を味わい、生きようとしているのだと
直感したのです。
その印象は、まだ幼かった私の記憶に、
とても強く残りました。