これまで触れてきたユニバーサルデザインとは、
あらゆる人々にとって利用しやすいデザインを
設計、開発して提供する試みでした。
ここに、新たな潮流が加わります。
ロンドンの英国王立芸術学院(Royal College of Art)が
中心となって研究し、世界に発信していった
「インクルーシブデザイン」です。
それは、これまで市場が
「大勢の中に属さない(Exclusive)」
と切り分けていた人々を開発に巻き込んで、
一緒にデザインをつくりあげていこうという
取り組みでした。
これまでマス・マーケットが相手にしていた人たちは、
体格や心身の能力などが標準や平均とされた人たちでした。
だから、次のような人々は別格として扱われ、
限られた市場の中でくくられていました。
- 身体的な排除: 身体的な障害を持つ人々
- 感覚的な排除: 視角や聴覚を失った人々
- 知覚的な排除: 認知症などにより学習能力が失われてしまった人々
- デジタル化による排除: デジタルリテラシーを有さない人々
- 感情的な排除: 家族や地域のつながりの希薄化による、
孤独や孤立化した人々 - 経済的な排除: 貧困の状態にある人々
その他にも、言語的な排除など、
数え上げれば無数に例を見つけることができます。
これらの人々をデザイン・パートナーとして
開発チームに招き入れ、設計・開発の早い段階から
参画してもらうことで、これまでなら思いもよらなかったような
視点を得て、デザインのアイデアを発掘します。
「インクルーシブデザイン」には、ユニバーサルデザインのように
決まった法則がありません。
大切にしているのは、デザイン・パートナーとの
対話や観察から得られる「気づき」です。
そして、これまでマス市場が除外してきたユーザーを含む
すべての人々にとって、求めやすく使いやすい、
そして美しいデザインを導いていきます。
それと同時に、どんな境遇にある人も包み込んで、
それぞれの人がこの社会参画して存在意義を放ち、
生きる喜びを見つける手助けにもつながるのです。
インクルーシブデザインは発展途上のアプローチですが、
商品・サービスに新しい価値を付け加え、
新しい未来を拓く可能性を私たちにもたらしてくれています。