色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年

最近、村上春樹氏が一年ぶりに
小説「女のいない男たち」を出版しました。

前作は、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」でした。色彩を持たない多崎つくるとタイトルの「色彩」という言葉が気になり、今更ではありますが、
先日、前著を読みました。

主人公の多崎つくるは30代の後半を迎える会社員。
東京の大学で建築を学んだ後、
東京の地下鉄会社で駅を作る仕事に携わっています。

「色彩」というタイトルのキーワードと関係しているのは、
つくるが高校時代に親しかった4人の友人たち、
それぞれ名前の中に色の漢字が含まれていて、
アカ、アオ、シロ、クロと呼ばれていました。

ある日突然、つくるは理由を知らされないまま
友人の4人から絶交を言い渡され、
深い心の傷を抱えて生きていくことになります。

そして、あるできごとをきっかけに、
つくるはそれぞれに暮らす彼らを20年ぶりに訪ねて
絶交の真意を聞くことになります。
それは、つくるにとって青天の霹靂ともいえるものでした。

一読して感じたのは、昔から変わらない、
村上氏の独自の世界観を読み手に伝える表現力です。
まるで物語が事実であるかのような不思議な現実味があり、
情景の描写には、瞬間の切り取り方にこだわりを感じます。
五感に訴える情報が細やかに描かれ、
思いがけないのに「なるほど」と感じられる比喩表現が
各所にちりばめられています。

彩り豊かな情景と、モノクロームのように沈鬱な
つくるの心情が対比をなして物語が進んでいき、
やがて終盤には、その対比が姿を消していきます。

「色彩」だけでなく、いろいろな角度から楽しめる、
含蓄を感じさせる作品です。

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