「第三の道~インドと日本とエントロピー~」 に、
はっとする内容が載っています。
それは、ジェレミー・リフキンという人の、
「エクスターナル・コスト」の試算結果についての要旨です。
「エクスターナル・コスト(外部コスト)」とは、
企業が製品を製造、販売する過程で生じる
自然破壊や廃棄物の影響を金額にあらわしたものです。
Jeremy Rifkin, “Entropy-a new world view”.
病院、農業、都市化、教育などの
「エクスターナル・コスト」の試算が載っている。
※リフキンは、カーター大統領時代のホワイトハウス・ブレーンの一人で、
政府のいろいろな経済企画や統計に直接タッチとていた人物です。
リフキンは、ひとつの病院をつくった場合、
治療を受け病気がなおり、生命が助かる人の数と、
その病院を作ったために病気になり、
死亡する人数との比率がどうなるかを計算しました。
そして、詳細にわたる調査の結果、
病院の治療で恩恵を受ける人よりも、
病院を建設し、運営していく過程で
被害を受ける人が多いことを、
リフキンは実際の数字で明らかにした、というのです。
まず、コンクリート。これは石灰岩の山を削るのだから多量の埃が出て病人が発生する。
次に鉄筋コンクリート用の鉄。これも鉄鋼山を掘るために、鉱毒が発生し、ここでも病人が出る。
しかも、それを運搬するために、多量のガソリンを消費し、炭酸ガスと窒素酸化物が、空気を汚す。
病院では、薬を多量に使用する。それには製薬工場で必要である。その工場をつくる。
薬をつくるには原料が必要である・・・・・・
こうして、ひとつの病院を作り、運営するのに、じつに多くの病毒がまき散らかされることになる。
糸川博士は、南部アフリカの砂漠に暮らす
ブッシュマンを例にとりあげ、彼らの方が、
日本人よりも圧倒的に少ない労働時間で、
かつ、病気も少なく健康であり、
余暇を十分に楽しんでいる、といいます。
最近、映画で有名になったブッシュマンは、ハンター・ギャザラ、すなわち狩猟採集生活をしているけれども、じつは一週間の間に仕事をしている時間は、十二時間から二十時間にすぎない。
今日のサラリーマンがレジャーといっいて、スポーツ、ゲーム、芸術、あるいはパーティを愉しんだりしている時間は、じつは週に四十時間という労働に支えられている。
ブッシュマンの場合は十二時間から二十時間の労働以外は、すべて「レジャー」にささげられているのだから、彼らは先進国人間より、はるかに優雅な生活をしているといえる。
また、彼らはもっとも健康な種族であって、病気の数は非常に少ない。
それは、医療の発達よりも、パンドラの匣(はこ)を開けたことによって、つまり、人間が技術というもの、テクノロジーというものを採用することによって、いろいろな副産物、汚染物を流しだす、この汚染物が新しく病気をつくっているという現代の一画を物語っているといえよう。
これまでの自然に対峙して人工物を次々と生み出し、
物質的な豊かさを謳歌するあり方から、
自然に寄り添って生きるアプローチへの切り替えを考えなければ、
人類は思いがけず破局を迎えることになるかも知れない・・・と
博士はメッセージを読者に送ります。
このメッセージを30年以上前に発信された博士の言葉が、
まるで最近のことのように当てはまっています。
技術の高度化、開発スピードはとどまるところを知らず、
枯れた技術だけでなく、人であるエンジニアまで捨て、
不況や為替変動などの理由でもない限り、
乱開発を加速させ、価格を下落させ、
市場全体の成長性、価値を失わせてしまっています。
それだけではなく、新興国での工業生産も加速し、
世界中での資源の乱獲は、
ますます環境への悪影響を増しています。
パソコンやスマホが普及する前よりも、
現在のほうが余程、忙しくなったと思うのですが、
皆さんはいかがですか?
テクノロジーの高度化によって、
人は本当に、幸せになったと言えるでしょうか?